~Lion Kiss~
しかも相手は愛する恋人だ。

マヒルは身体に受けた傷の痛みより、普段優しい有川治人の豹変さにショックを受けたようだった。

つくづく俺は、有川治人と同じ頃にマヒルに出逢ったのにも関わらず、彼女と恋人関係になれなかった自分の運命を呪った。

……マヒルを帰したくない。

アイツのもとに帰したくない!

俺は、しばらくの間ここにいろと引き留めたが、彼女はそれを拒んだ。

『治人さんがいるのに、他の男の家に転がり込んじゃまずいでしょ』

初対面の時の、あの小悪魔めいたマヒルはどこにもいなかった。

こいつは……恋愛に対してしっかりとした道徳心を持っている女なんだ。

それが俺を無性にイラつかせた。

同時にますます惹かれていく。

結局、マヒルは次の日、俺のところに帰ってはこなかった。

朝、無理矢理聞いた携帯番号だけが、俺とマヒルを繋いでいた。
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