マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
「アングレール氏の後任に誰を常任にするの
か。私とゼネラルマネージャーとボナリーで
話し合ったんだ。」(仏)

「はい。」(仏)

「今まで何度となくゲストで来てくれた指揮
者の名前が数名挙がった。」(仏)


その方が自然だ。
お互いの腹の内も解っているだろう。

「ボナリーはもう一度仕事をするなら、君が
良いと名前を挙げたんだ。」(仏)

「……え?」

「彼はブラームスの1番を特に評価していた
んだ。何度も何度も演奏して、言わば手垢に
まみれた作品に新しい角度から光を当ててく
れた、と。」(仏)

「……。」

「感謝しているそうだよ。」(仏)

フレール氏が笑みをこぼす。

「感謝だなんて、…本当でしょうか…。」(仏)

「アイヴスの曲の解釈については、君の不徳
に至る部分もあるけれど、ライブラリアン(楽
譜の管理をする人)が密にやり取り出来てい
れば防げたはずだ。
こちらにも落ち度がない訳じゃない。」(仏)

「…はい。」(仏)




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