マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
最後の音が会場の隅々まで行き渡った後、それと入れ替わりに観客の拍手が起こる。

徐々に目の前の現実に戻ってくる。

呼吸を落ち着かせるための溜め息を一つつき、
目があったコンマスさんと握手した。

拍手に応えて、重要なパートを担当した楽団員を指しては起立させていく。勿論コントラバスソロの団員も。
達成感に満ちた表情だ。よかったね。


自分の楽屋に戻ってからも、オーケストラ関係のお偉い方々が、ひっきりなしに挨拶にきたりとしてたが、ようやく一息つけた。

……はあ。………疲れた。

マーラーの交響曲は本当に疲れる。編成も大きく、一曲の長さが長いというのもあるけど、精神的なものの方が大きい。


村上先生もマーラーを指揮すると、何だか白髪がどっと増えた気がする、と鏡を見ながら言っていたものだ。

白髪どころか、後頭部はけっこう空き地が目立ってますよ、と言わなかったのは僕のせめてもの優しさだと思って欲しい。


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