マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
そう言えば、翌朝目覚めた時には奏ちゃんはもういなかった。

そう言えば、次の日からいつもと少しも変わらない奏ちゃんがいた。

そう言えば、その日以来、えっちどころかちゅうも恋人らしきコミュニケーションをとれてない。

そう言えば、僕は奏ちゃんから返事らしきものを、何も言われてない……。


「なんかちょっとむしゃくしゃしてたんで、
ストレス発散、って言うか、現実逃避って言
うか。」

「すとれす発散、………」

絶句。

僕らは滞在先のホテルへと戻り、テーブルを挟んで対峙し、答え合わせをしている。

アーデルは僕ら二人の間に漂う、ただ事でない雰囲気に圧倒され、段々と冷静になっていった様で、「じゃ、私、帰るわ」と言い残し、楽器を持ってそそくさと帰ってしまった。


「イライラする事があると、せ、セックスに
逃げちゃうの?」

「逃げるって言うか、…まあ、うーん、そうな
んですかね。」

ということは、今までにもあったって事だよ、…な。


あっ。


「……もっ、しか、して。」


詰まる。言葉がなかなか出て来ないのだ。

嫌な予感が働いた。
根拠はないが、僕の知る限りの人物で二人思い浮かんでしまった。
浮かんでしまったのだから仕方ない。



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