マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
どんなに落ち込んでたとしても、次の仕事はやってくる。

「奏ちゃんパスポートはあるの?」


「ありますよ。短期の留学とか、修学旅行と
か、家族旅行とか、姉がスイスに住んでます
し。」


今度の公演は海外。フランスのオーケストラに
客演で呼ばれている。
これ迄にも、海外のオーケストラに呼んで貰える事はあった。


…だけど…。

振る曲が問題なのだ。


「アイヴス『答えのない質問』と、
プロコフィエフ『ピアノ協奏曲第3番』と、
ブラームス『交響曲第1番』の三曲。」


「プロコフィエフ…。」


奏ちゃんがおうむ返しにつぶやく。
心なしか表情が雲っていた。
ん?


「どうかした?」

「あ、いいえ。」


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