マエストロとマネージャーと恋と嫉妬と
「アイヴスは初めて振る曲なんだ。」


指揮者としてまだまだ駆け出しの僕は、当然振った事の無い曲の方が多い。
ベテランの指揮者だって、ハイドンの交響曲は
振った事が無いものもある、というのも聞いた事がある位。


そりゃ、曲なんて星の数ほどある。
どうしても人気のある曲、耳馴染みのある曲の
方がよく演奏されるし、片寄ってくる。


巡り合わせは、今回やってきた。


「全く知らない曲よりかはマシなんだけどさ
オーケストラによっては、毎年新曲を委嘱す
る所もあるし。それに比べれば…。」


はは、と笑ったが笑顔は引きつっているだろう


だが次の瞬間はっとなった。
やば。また愚痴ってしまってた。


恐る恐る奏ちゃんの表情を窺うと、まだ様子がおかしい。
心ここにあらず、といった感じなのだ。

…。

何だろう。
大丈夫かな?
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