疑似恋愛
再び目を開けると、そこには煌びやかな世界が広がっていた。
きらきら光るシャンドル、豪華なごちそう、美しく着飾った女性達や、それとは正反対にビシッとした格好をしている男性達。
「うわあ…。」
思わず感動の溜息が漏れる。
…って、そんな場合じゃない。
ここ、どこよ。
辺りをきょろきょろと見回していると、メイド服を着た女性にぶつかった。
振り返ると、女性はこちらを睨みつけていた。怖い…。
「ユーリお嬢様!しっかりして下さいまし。」
「えっ、ご、ごめんなさい。」
反射的に謝ってしまったけど、この人は誰だよ。そもそも、そっちからぶつかってきたんじゃない。
「あのー、どなた?」
「…いい加減にしろや。」
「え?」
何だか怒っていらっしゃる…口調がさっきと違う。
「お嬢様、ここは王太子殿下の誕生日パーティーの場。おふざけが過ぎると、不敬に当たりますよ。ヴァンクリーフ様に報告させていただきますから。」
「…ヴァンクリーフ?」
そう言って私が首をかしげると、メイド服を着た女性は信じられないといった感じで首を振った。
「貴方のお父上に報告させていただきます、と言っているのです。…噂には聞いていましたが、ここまで馬鹿だとは…。」
私の知り合いに、ヴァンクリーフとやらはいない。何言ってるの、この人。
「えーと、とりあえず…。私の名前は…ユーリ・ヴァンクリーフ?」
今度は女性が怪訝そうな顔になる。
「はい、そうでございます。」
「で、お父様がヴァンクリーフ?」
「ライオネル・ヴァンクリーフ様でございます。」
「で、貴方、誰?」
女性はとうとう固まってしまった。
ああ、いけない。これはおかしい子決定じゃん。
でも私は、誰がなんと言おうと、『あさか』のはずなの。だって、私の記憶ではそう呼ばれているから。
「…今朝申し上げた筈ですが。」
「ご、ごめんなさい。確認のため?に、もう一度言っていただけると有難いなー、なんて…。」
どこぞの媚を売る小物のオヤジのように、へへ、と笑って上目遣いをする。
「…はあ」
返ってきたのは溜息でした。
「や、やっぱだめ?」
「…エステル。」
「え?」
やばい、睨まれてしまった。冷ややかな目が私を見下ろしている。
「エステルと申します。本日、ユーリお嬢様の教育係に配属されました。」
「あ、へえ…。エステルさんっすね、よろしくっす、へへ。」
冷ややかな目は変わらない。媚売りオヤジはどこの世界でも嫌われているらしい。
「エステル姐さんは、どうして私の教育係になったんすかね。」
「…。」
だんだん冷ややかな目が可哀想なものを見る目に変わっていっている。辛い。
「とりあえず、私は貴方の姉ではございません。」
「あ、いやそういう意味ではない…って、そこは置いといて。」
そこを突っ込むと今の挙動不審な私についても突っ込まれていく訳で。それは避けたい訳で。とりあえず情報を集める訳で。
「…詳しくは聞いておりませんが、ユーリお嬢様が前の教育係を解雇されたそうでございます。それで私が…。」
「え!?私が!?教育係をクビに!?」
嘘だ。私はそんな横暴な人間じゃない。てかそんな記憶無いし。友人達の間では穏やかだって言われていたんだぞ!ほ、本当だよ?ほら、あの子にも言われていたんだ…あれ、名前が出てこない。
とても、大切な子だったはず…。
「礼儀作法の授業でお嬢様が怒られて…それが理由で辞めさせられた、とか。」
「そ、そんな理由で…。」
むしろ、叱ってくれるのはいい事ではないか。
ひどい、という雰囲気を醸し出してみたら、エステルはまた冷ややかな目に戻った。
「ええ、ユーリお嬢様がそうなさったと聞いた時は、私はなんて人に仕えなければならないのかと震えましたね。」
あ、そうだ。私がやった…んだっけ。
記憶に御座いません(ニッコリ)。
「…って、私、一応貴方より偉いんだよね?何その言い草、酷くない?ドSなの?」
「どえす…?それが何かは分かりませんが、お嬢様よりはましかと。」
…確かに。今聞いた『ユーリ』の行いは酷いものだ。でも、覚えのないことでそんなに責められても、私にはどうしようもない。
不満そうな表情が出ていたのだろう。エステルは冷ややかな目はそのままで、美しく微笑んで言った。
「…私を、解雇なさいますか?」
「!」
私は言葉に詰まった。ええ、クビよ…そう言いそうになったことに驚いた。こんなの、私じゃない。『あさか』じゃない。
「…いいえ、そんな事はしないわ。」
私は掠れた声で言った。エステルは少し驚いたように目を見開いた。
「…ごめんなさい、エステル。私には、記憶がないの。最低限のマナーを教えてくれる?」
とりあえず、ここを乗り切らなければならない。私は『あさか』で、『ユーリ』ではないけど、私は今現在『ユーリ』のようだから。
「その後、あのおばあさんも捜さないと…。」
「おばあさん?」
首を傾げるエステルに向かって、先程のエステルのように私も美しく微笑んでみせた。
「貴方には関係ない話よ。」
少なくとも、貴方が味方かどうか分かるまでは。
きらきら光るシャンドル、豪華なごちそう、美しく着飾った女性達や、それとは正反対にビシッとした格好をしている男性達。
「うわあ…。」
思わず感動の溜息が漏れる。
…って、そんな場合じゃない。
ここ、どこよ。
辺りをきょろきょろと見回していると、メイド服を着た女性にぶつかった。
振り返ると、女性はこちらを睨みつけていた。怖い…。
「ユーリお嬢様!しっかりして下さいまし。」
「えっ、ご、ごめんなさい。」
反射的に謝ってしまったけど、この人は誰だよ。そもそも、そっちからぶつかってきたんじゃない。
「あのー、どなた?」
「…いい加減にしろや。」
「え?」
何だか怒っていらっしゃる…口調がさっきと違う。
「お嬢様、ここは王太子殿下の誕生日パーティーの場。おふざけが過ぎると、不敬に当たりますよ。ヴァンクリーフ様に報告させていただきますから。」
「…ヴァンクリーフ?」
そう言って私が首をかしげると、メイド服を着た女性は信じられないといった感じで首を振った。
「貴方のお父上に報告させていただきます、と言っているのです。…噂には聞いていましたが、ここまで馬鹿だとは…。」
私の知り合いに、ヴァンクリーフとやらはいない。何言ってるの、この人。
「えーと、とりあえず…。私の名前は…ユーリ・ヴァンクリーフ?」
今度は女性が怪訝そうな顔になる。
「はい、そうでございます。」
「で、お父様がヴァンクリーフ?」
「ライオネル・ヴァンクリーフ様でございます。」
「で、貴方、誰?」
女性はとうとう固まってしまった。
ああ、いけない。これはおかしい子決定じゃん。
でも私は、誰がなんと言おうと、『あさか』のはずなの。だって、私の記憶ではそう呼ばれているから。
「…今朝申し上げた筈ですが。」
「ご、ごめんなさい。確認のため?に、もう一度言っていただけると有難いなー、なんて…。」
どこぞの媚を売る小物のオヤジのように、へへ、と笑って上目遣いをする。
「…はあ」
返ってきたのは溜息でした。
「や、やっぱだめ?」
「…エステル。」
「え?」
やばい、睨まれてしまった。冷ややかな目が私を見下ろしている。
「エステルと申します。本日、ユーリお嬢様の教育係に配属されました。」
「あ、へえ…。エステルさんっすね、よろしくっす、へへ。」
冷ややかな目は変わらない。媚売りオヤジはどこの世界でも嫌われているらしい。
「エステル姐さんは、どうして私の教育係になったんすかね。」
「…。」
だんだん冷ややかな目が可哀想なものを見る目に変わっていっている。辛い。
「とりあえず、私は貴方の姉ではございません。」
「あ、いやそういう意味ではない…って、そこは置いといて。」
そこを突っ込むと今の挙動不審な私についても突っ込まれていく訳で。それは避けたい訳で。とりあえず情報を集める訳で。
「…詳しくは聞いておりませんが、ユーリお嬢様が前の教育係を解雇されたそうでございます。それで私が…。」
「え!?私が!?教育係をクビに!?」
嘘だ。私はそんな横暴な人間じゃない。てかそんな記憶無いし。友人達の間では穏やかだって言われていたんだぞ!ほ、本当だよ?ほら、あの子にも言われていたんだ…あれ、名前が出てこない。
とても、大切な子だったはず…。
「礼儀作法の授業でお嬢様が怒られて…それが理由で辞めさせられた、とか。」
「そ、そんな理由で…。」
むしろ、叱ってくれるのはいい事ではないか。
ひどい、という雰囲気を醸し出してみたら、エステルはまた冷ややかな目に戻った。
「ええ、ユーリお嬢様がそうなさったと聞いた時は、私はなんて人に仕えなければならないのかと震えましたね。」
あ、そうだ。私がやった…んだっけ。
記憶に御座いません(ニッコリ)。
「…って、私、一応貴方より偉いんだよね?何その言い草、酷くない?ドSなの?」
「どえす…?それが何かは分かりませんが、お嬢様よりはましかと。」
…確かに。今聞いた『ユーリ』の行いは酷いものだ。でも、覚えのないことでそんなに責められても、私にはどうしようもない。
不満そうな表情が出ていたのだろう。エステルは冷ややかな目はそのままで、美しく微笑んで言った。
「…私を、解雇なさいますか?」
「!」
私は言葉に詰まった。ええ、クビよ…そう言いそうになったことに驚いた。こんなの、私じゃない。『あさか』じゃない。
「…いいえ、そんな事はしないわ。」
私は掠れた声で言った。エステルは少し驚いたように目を見開いた。
「…ごめんなさい、エステル。私には、記憶がないの。最低限のマナーを教えてくれる?」
とりあえず、ここを乗り切らなければならない。私は『あさか』で、『ユーリ』ではないけど、私は今現在『ユーリ』のようだから。
「その後、あのおばあさんも捜さないと…。」
「おばあさん?」
首を傾げるエステルに向かって、先程のエステルのように私も美しく微笑んでみせた。
「貴方には関係ない話よ。」
少なくとも、貴方が味方かどうか分かるまでは。