疑似恋愛
翌日、病室に行ってみると、あさかは





目を覚ましていた。







私に気づくと、あさかはゆっくり微笑んで




「トモコ。」






私を呼んだ。





思わず涙が出て、立ち尽くしてしまった。






「ふふ、泣かないでよ。」






そういうあさかの声も、まだ掠れてて。






そして、涙声だった。








たまらず駆け寄って、朝霞を抱きしめた。





「また、会えた。良かった…。」






「トモコ、ありがとう。」






顔を上げると、あさかは泣きながら笑っていた。





「ずっと、ありがとう。お見舞いとか、色々…。」






「ううん、当然だよ!当然だもん…。」





「ちょっと、痩せた?背、伸びたね。大学は、どこに入ったの?」





「…私は、ちゃんと生活してたよ。大学は、K大に。」





「…私が、行きたいって言ってた所。」






「そう。一緒に行きたいって、思ったから。」






「うん。そう出来るかな…。もう…。」







あさかはゆっくり首を振って、笑った。






「…ううん、何でもない。」






「…そっか。」






「成績伸ばしたんだね、トモコ。あの時、K大はまだE判定だったはずだもの。」






「うん、頑張った。今も、頑張ってる。」







「うん…おめでとう、トモコ。」






「ありがと。あさかも、目を覚ましたもん!おめでとう!」





「……ありがとう!」







最高の笑顔だった。






私は最後に、あさかのそんな笑顔を見ることが出来て良かった。あさかは、その翌日亡くなった。






せっかく目が覚めたのに。






せっかく、これからだったのに。




病室を出て行く時、あさかはまた言った。






「ありがとう。トモコ、…さよなら。」






さよなら。






そんな事、言わなくていいじゃん。






また明日、会えるじゃん。






涙で前が滲んだ。あさかの顔が見えない。






「おやすみ、あさか。…またね!」






あさかも泣いてた。そして、また言った。







「さよなら…!ごめんなさい!ありがとう。呼んじゃあ、ダメだよ。」






思わず、振り返った。






「いや、無理だろうなぁ。トモコ、泣き虫だもん。」





私は黙って首を振る。






いや。聞きたくない。いや…!






「なんであの夢と同じ事言うのよ…!」






「夢じゃないよ。夢じゃないの…!」






私はそれ以上聞きたくなくて、走った。






走って、走って、走って…






自分の家に、どうやって帰って来たのか。






私は布団に潜り込んで泣いた。






いつの間にか眠って、気がついたら朝で。





起きた時に、ストン、と






ああ、今日が、あさかの命日になる。






そう感じた。






その感じは当たった。






不思議と、悲しくない。






たった1日。でもその1日は、あさかに再会出来て…お別れできた日だったの。






ちゃんと話せて、良かった。






お別れできて、良かった。






「ありがとうあさか。…さよなら…。」




















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