元通りになんてできない

「…ごめんなさい、幸元君」

どうやら泣き止んだようだ。

「…俺なら大丈夫です」

「…ごめんね、有難う。もう大丈夫」

そう言って鷹山さんは離れた。不謹慎だけど俺は心のどこかで名残惜しかった。


「…あのね。知里は」

「ま、待ってください。俺なんかが聞いていい話ですか?」

「幸元君…。貴方はいつもそうして気にするのね。
有難う…。誰にも言える人が居ないの…。聞いて欲しいから、話すのよ?」

そして、鷹山さんはポツリポツリと声を詰まらせ、話し始めた。

知里ちゃんが亡くなった御主人の親御さんに引き取られて行ったこと。それは決めていた事だったということ。
詳しい事情の解らない知里ちゃんはバイバイと手を振って明るく別れたこと。
祖父母に何かあった時の為、鷹山さんは鷹山姓のままでいること。
そこまで話す頃には、鷹山さんのアパートに着いていた。


「ごめんね幸元君。やっぱり…誰かに話してみるものね。事情を解ってもらえている人が居ると思うと、少し楽になったような気がする。もう、そんなに…泣かずに居られるかも知れない。
でも、こんな重い話、聞かされる貴方には、迷惑な話よね」

涙で濡れた顔で、無理に笑顔を作る鷹山さんが切なかった。

「…部屋が…広いの。狭い部屋なのに。信君の事、一緒に思い出してしまって…何も無くなってしまったような気がして…知里は生きてる、会えるんだけど…」

「鷹山さん…、すみません」

俺は謝り、鷹山さんを引き寄せると、胸に押し付けるように抱きしめた。
…もっと早くこうしていれば…。

「……幸元君?…」

「無理に笑顔を作らないでください。泣き足りなければ、泣いてください。我慢しなくていいです。言いたいこと、何度繰り返したっていいです。
人の目を気にして、泣き止んだりしなくていいです。
気の済むまで泣いてください」

鷹山さんは声を上げて泣いた。知里、知里と呼び、泣いた。

俺は泣き止むまで抱きしめていた。
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