元通りになんてできない
沢山のプロポーズ


約束通り、両親には、俺の好きな人だ、と紹介した。

あんな結婚の後だ。
正直、早く結婚をと言っていた親も戸惑っているのが解った。

親父に限っては、また騙されてるんじゃないだろうな?と無遠慮な事を言ってくる。
言いたくなる気持ちは解るけど。鷹山さんに失礼な話だ。

「結婚とか、まだだって言ってるだろ?それとは関係なく、俺が本気で好きになったんだ、人として、間違いの無い人だよ」

「それでも…なあ。後から何があるか…解らんからなあ」

「親父、頼むから疑心暗鬼にならないでくれ。この人は間違いの無い人なんだって…」

「うう、ん。解ってはいるんだ。見れば人柄は解る。ただな、あんな事があるとな…」

それまで黙って聞いていた薫さんは初めて口を開いた。

「鷹山薫と申します。猛さんと同じ会社に勤めています。
年齢は猛さんより5歳年上です。現在4歳になる娘がおります。
事故により夫が亡くなってから二人で生活をしておりましたが、娘は春から亡くなった夫の家に引き取られました。
夫が一人息子だった為、跡を継ぐ為です」

そこまで言い終わったところで、こちらも今まで黙って聞いていた母親が、いきなり薫さんを抱きしめた。

「……辛かったでしょ?頑張ったわね…。可愛い盛りの娘さんと離れるなんて…、身を切られる思いよね。…よく頑張ってる。
男に子を思う母親の気持ちは解らないわ」

そう言って背中をさすっていた。俺はあまりに突然で訳が解らず面食らっていた。

「猛、母さんは、薫さんがいいわ」

「は?」

「あんたが結婚するなら、薫さんがいいって言ってるの。他の人、連れて来ても駄目だからね。
いい人、好きになったわね。この人は芯のあるしっかりした人だわ」

俺は思わぬ伏兵に驚いた。薫さんの気持ちの後押しになってくれるかも知れない。

「でも、まだ結婚は決まってないんだ」
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