元通りになんてできない


「猛君、ご飯は?どのくらい…」

「…普通でいいです」

「キャッ。ビックリした…いつの間に」

お味噌汁を温めていた私の直ぐ後ろに立っていて、近付いていた事に全く気がつかなかった。

「危ないから火の側は…。お味噌汁もかかると火傷するし」

後ろから腰に腕を回され、肩に顎を乗せてきた。
う、わ、密着し過ぎでしょ?…。

「薫さん?」

「はい」

「薫さん」

「はい」

「薫さん!」

「…はい、…何でしょう」

「フフン…はぁ、いいですね、こんなの」

「…あ、あのね、猛君」

猛君は誰が見てもはっきり解るほど、デレッとしていた。

「何でしょう?」

「もう…、何でもない。しゃんとして」

「ぇええ〜?」

ブーたれている…。

「だってですよ?今二人なんだし。……薫さん、一緒に住みませんか?俺達」

「え?あ、それは…。離れましょう」

「え…」

「ご飯準備出来ないから、離れてください」

「な〜んだ。ビックリした〜。離れなきゃいけないのかと思いました」

クルッと反転させられ、前から抱きしめられた。

「キャッ、…もう」

「離れませんよ。絶対。もう離しませんから…離れません」

ひやっ!いつの間に…。正面に立つ猛君のお母さんと目が合った。

「あ〜、んん、ん゙ん゙っ。コホン。ちょっと、お取り込み中、ごめんなさ〜い」

「か、母さん!…」

猛君は声に驚き、振り向くとギョッとして、慌ててバタバタと離れた。
何もしてないのに身嗜みを整えたりしてる。…。

「忘、れ、物、よ。…肝心な絵の具、持って行くの忘れちゃったのよ…ごめんなさい、お邪魔しちゃって。
さあさあ、遠慮なく。続けて頂戴」

…。

お母さんはまた出掛けた。

「…じゃあ、遠慮なく。薫さん…」

え?あ…。唇を食まれた。
もう…、また、デレッとしてる…。
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