元通りになんてできない
ええい、どうにでもなれだ。一か八か…。
「いいえ、間違いありません、…と思います」
「…そうか。…そうだったか…」
部長は考え込んでいるように見えた。…そう。このままだと幸元君は夫の居る私を好きだとなってしまってる。
「あの、私、この機会をお借りして、話しておきたい事があるのですが、今、よろしいですか?元々部長にお話があって、都合を窺おうとそう思っていたところに声を掛けられたものですから」
「あ、では、なんだか驚かせてしまったかな。それで…話と言うのは何かな?」
コーヒーを一口飲み、低く渋い声で尋ねられた。
一瞬怯みそうになる。
「私…、入社の際の面接で、結婚して子供が居ると言いました」
「うん、そうだね。確かにそう聞いているが?」
「実は…、面接の時点で夫はもう亡くなっていて居ませんでした。あの時、その事が言えませんでした。申し訳ありませんでした。それから子供も、現在は扶養していません。
夫の親が引き取りました。
すぐに届け出しなくて、すみませんでした」
「何故、早く言わない」
「えっ、はい、すみませんでした」
「ご主人がいない事だ」
「え、あの…それは、私の偏ったプライドからでした」
「プライド?」
「はい。…夫がいないから、働きに来ているんだと思われたくなかった。夫がいないという事で、惨めな気持ちになりたく無かったからです」
「…だから隠した」
「はい」
「そうか…。でもな、今となってだが…、言って欲しかったと思ってるよ。
細かい事を言えば、手当だって違うんだ。大事な事だよ?貰えてたはずのものも、貰えてないじゃないか。
まあ、最初はどんな会社か解らないから、言おうと思っても言えなかったんだろう。
働くという事は、まず採用される事が最優先だもんな…」
「はい。私はそれで良かったので大丈夫です。有難うございます」