白雪と福嶋のきょり

10:22

「姫ー!見て!変な魚!」
「…どこがナポレオンなのこいつ。」

突き抜ける空。空に映える赤屋根。体感したことのない湿度の高さ。痛みを感じるほどに強い日差し。先が見えない瑠璃色の海。

「あ!”イモ”だ!”イモ”!」
「…”二”だろ」

待ちに待った修学旅行。

今週から完全に夏服に移行となり、みんなと同じ露草色のスカートを纏い、飛行機の中から見えた太陽に輝く海に負けないくらいの笑顔で笑い合う。

「あ、姫ブレスレット外したの?」
「うん」

二日前とは少し予定が変わってしまったけれど、それに悲しんでいる余裕なんてどこにもない。

空港で泳ぐ愛嬌のあり過ぎる魚や男子が間違えたキャラクターの名前。そんな些細なことでまた笑い合う。

慣れない気候と異常な暑さに引き起る気怠さ。

雨が降ればそれらをすべて洗い流してくれるんじゃないかと笑えば、みんなから「朝の努力が無駄になる」と一蹴されてしまった。

けれど、そんなことすらも地元に帰れば思い出の一つになってしまう気がして。

また笑い合う。

「姫ー!一緒に撮ろー!」
「はあい」


やっぱり、悲しんでいる余裕なんてどこにもない。
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