竜宮の御使い
「アヤノ…。龍宮の御使いとしてそなたがこの世界に現れてから我らは5年待った。その長い歳付き…何度もこうしてアヤノの目を見て、その手に触れ、名を呼びあう日を夢見て来た。」

シエン様はアメジストの瞳に強い意志をにじませる。

「顔を見る事も触れることもできない相手をこれほどまで深く想った事は無い。…こうして顔を見て触れる事が出来る今、この想いは益々大きくなるばかりだ。」

「龍宮の御使いだから…そう思う事もあるでしょう。ですが、貴女が現れて目覚めるまでの長い歳付き、私たちはあなただけを想ってきました。その気持ちにウソはありません。」

「もう止められない。」

シエン様とシオン様が真っすぐと私を見つめる。

「「アヤノが好きだ。」」

「どうか…」「どうか…」

「「私たちの妻になって欲しい。」」

切なげに細められたアメジストの瞳。ユニゾンする想い。
全てが重なって私の中に流れ込んでくる。
ドクン!まただ…。初めて二人に名前を呼ばれてから…心臓がまるで二人の想いに絡
みつかれたかのように大きく跳ねる。
シエンがゆっくりとこめかみに垂らしたひと房の髪を救い口づける。シオンがゆっくりと反対側のこめかみに垂らしたひと房の髪を救い口づける。その仕草はまるでスローモーションのように見え、私は全身を震わせた。
頭の中でいろいろな言葉が逡巡して何を言っていいのかわからない。ただ、向けられたアメジストの双眸と熱く強い想いからは逃げられない。

それでも…心の中にある小さな穴が私の想いを暗くする。

「えッ…-と。…この世界に5年前に来たって言われたけど…私、目覚めたばかりで…。突然、龍宮の使いだとか番だとか言われて頭も混乱しているのに…そこに王妃だとか国母だとか言われても…どうしていいか正直わからないです。」

瞳に涙が溜まっていくのが解る。
突然事故によって奪われた日常。気がついた時には元の世界では自分は死んでいて…もう戻る事は出来ない…。
目まぐるしく変わっていく事に追いつくのが精いっぱいでよくわからなかったけど…冷静になろうとするほど、知らない世界でただ一人…。
言いようのない不安、悲しみが溢れ口に出したら止まらなかった。
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