熱砂の心
『実は、昔よく遊んでいた理恵ちゃんって言う友達がいたんですよ。私が高校に入る頃に自殺しちゃったんですけど。』
淡々と女は話しを続ける。男の眼はなにかを思ったような、いつもと違う眼だった。
『その子が死んだときは勿論辛くて、毎日泣きながら寝て、夢でもいいから会いたいと思ってました。』
『その子がそんなに追い詰められてるの知らなくて。だから会って、もっと話をしたかったんですけど、その前に。』
しばらくして重い空気が場を支配しはじめた頃に、女は少しだけ笑いながら話を進めた。
『理恵ちゃんは苛められてた私の初めての友達です。家族にも馴染めない私が唯一楽しく笑って過ごせる場所を作ってくれた親友。毎日が楽しくなって、外の世界はどうでもいいからずっと二人のこんな時間が続けばいいとか考えちゃってて。』すると直ぐ様女の顔は元の切なさを知った顔に戻り、また死んだ親友を偲んで話始めた。
『最近出てくるんです。夢の中で昔のままの理恵ちゃんが。私を呼んでるんです。』
『逃げたいなら私が連れていってあげる。って。』
10月の終わり。冷たい風は吹いてなかった。他の客はなんの話をしているのだろうか、常に笑いが絶えないカフェを作っていた。店の中からは聞き覚えがあるスタンダードなジャズが甘い音を奏でている。女は終始うつむきながら話していたが、男はそれを見ずとも女の眼は細くなり、時に手の甲を濡らしたものが涙であることは知っていた。男は『そうか。』と短く頷き何をはなしたらいいかを考えていた。すると女は続けて、申し訳無いといった風に、相変わらず下を向いたまま指で涙を拭った。
『その娘とは夢の中で話すの?』
『いえ、声がでなくて。ただずっと白い霧の中でもがいているだけなんです。』
『その娘にまだ何か言いたいことはあるの?』
驚いたような顔をしたが女は『はい。』と即答した。
『何を伝えたいの?』
『それは。』
男の顔は真剣であった。だが同時にどこか不安げな風にも見えた。お互い相手が何を考えているかが見えなかった。女は必死に伝えるべき言葉を考えているのだろうか、眼が泳ぐ。男は回りの雑音が聞こえてはいなかった。寒さも感じなかった。風も、回りの世界が消えていく。白く、白く世界はグレーに染まっていき、何処かで感じたことのある懐かしさの中で気づけば、女の口元が動き始めた。男の眼は曇っていった。

11月の風はとても寒い。
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