美人はツラいよ

「美姫ちゃん、今度は長者町に新しくできたイタリアン行こうよ~」
「もう、田上さんたら、仕事中ですよぉ~」
「いいじゃん、どうせ、誰もいないし。」

そう、彼女の言うように、今は紛れもなく業務時間中。
なのに、先ほどから私の頭上を飛び越えて、やり取りされている楽しげな会話。
彼の言うように、課長が有給休暇、主任が会議中という、いかにも気が緩みそうなシチュエーションとはいえ、これは少々緩み過ぎというものではなかろうか。

しかも、誰もいなく…ないし!
私がいるし!

私は一つ大きく咳をして。
まずは右隣の席の彼女に話しかけた。

「美姫ちゃん、その伝票の山、終わりそう?主任が今日中だって言ってたけど。」

私が指摘すれば、新人の杉浦美姫(すぎうらみき)は慌てて伝票の山に手を掛けた。
やべ、忘れてた!と、顔には書いてある。
キラキラしたフレッシュな笑顔を振りまく22歳。
ツヤツヤのお肌に、プルンとした唇、少しグラマーな胸は、男性を虜にする必須アイテム。
私の友人によれば、どうやらこれが、完全無欠の小悪魔女子というらしい。
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