エリート同期は意地悪がお好き
…次の日。私は、営業部の社員の助手として、外回りに同行していた。

どうしても、事務業務が重なると、1人では大変だと言う事で、最近はこうやって、外回りに同行する事も増えてきた。

「初めまして、営業部の、斎藤朱莉と言います」

そう言って頭を下げ、ポケットから名刺ケースを取ろうとしたら…

「…斎藤さん、どうしたの?」

同行していた営業部社員の人に問いかけられ、私は思わず苦笑いをしてしまった。

「…すみません。大事な名刺を忘れてしまって」
「え?!・・・困るよ斎藤さん」

…ですよね。私も、凄く困ってる。デスクの上に忘れたのかな?…いや、デスクの上に、出した覚えはないし。

もしかしたら、どこかで落としたのかもしれない。


「いいですよ。また、来た時に、改めて、名刺をください」
「…本当にすみません」

優しい取引先の人に恐縮してしまう。

「斎藤さんでしたよね。貴女は、とてもお綺麗な方です。名前と顔は、忘れられそうにないですから」
「お上手ですね、西村さん」

取引先の方と、先輩のおかげで、その場を切り抜ける事が出来たからよかったものの、会社に帰ったら、すぐに、新しい名刺を作ってもらわなければと思った。


…オフィスに戻った私は、失敗を取り戻すかのように、仕事に没頭した。

今後こんな事がないようにしなければと、自分を戒めた。
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