焦れ甘な恋が始まりました
 




「蘭(らん)、そういう時は早く言ってって、いつも言ってるでしょ……!」


『そんなこと言われても、急に決まった出張だったの。お姉ちゃん、ホントにごめんね。あ……今から打ち合わせだから、またLINEするね!』


「ちょ、ちょっと……!」



電話先の相手を慌てて引き留めようとしたけれど、叶うことなく一方的に切られた電話。


無機質な電子音だけが耳に響いて、私は溜め息を吐きながら色を無くした携帯の画面を見つめた。


ふと時間を見れば、いつもの帰宅予定時刻は等に過ぎていて、その事実が余計に重く私の心にのし掛かる。


もう……ホントに、嫌になる。


自分の手に持たれた大きな保冷バッグの中身のことを考えれば、逃げ場のない憂鬱に苛まれるばかりで、再び大きな溜め息を零すしかなかった。


 
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