焦れ甘な恋が始まりました
 



だけど、ありがとう、なんて。

やっぱりそれは、私の言葉です、下條さん。


心の中で精一杯そう応えながら、私は足元で倒れた鞄と荷物、そしてその中にある一冊の本に―――手を伸ばした。


私が下條さんと出会って変われたように。

きっと、この一冊も。

誰かに出会い、その人の何かを変えるキッカケになるのだろうと、まだ見ぬ結末を想像したら笑みが零れた。



「……ってことで、杏が俺に惹かれた理由は、この後じっくり聞かせてもらおうかな」


「へ?」


「もちろん、ベッドの中で。今までお預けされてた分、杏が嫌になるくらい、じーっくり、たーっぷり、ね?」


「っ、」


「まぁ……まずは、俺の下の名前を自然と呼べるようになるまで、杏の身体を虐め倒そうかな」



そう。

ここまでは、私の、美味しい恋の作り方。

彼との、恋の作り方。

目の前で意地悪に微笑む彼を見て、私はほんの少しだけ、見えない未来が不安になったけど。



「……好きだよ、杏」



大好きなこの人と一緒なら、私はきっと、どんな時も幸せでいられる気がするの。


この先、どんなことが起きたとしても。


愛しい彼と一緒なら、これからも、心も身体も美しくいられると思うから。





「美味しい恋の作り方。」✽fin

 
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