焦れ甘な恋が始まりました
 


「、」



下條さんの言葉に、思わず声を失って。

あっという間に滲んだ涙を誤魔化すように視線を下へ落として俯いた。



「今更だけど、ありがとう、杏」

「っ、」

「杏がいてくれたから、今の俺がいる」



……こんなことって、あるのかな。

たった一言で、平凡だった私の、世界が変わる。

何気ない毎日に新しい風が吹いてきて、見たことのない場所へと連れて行ってくれる。



「まぁ、そんなわけで。今のが、俺が杏に心惹かれた理由。もちろん、それからの月日で更に思いは募って、杏の手料理を食べた瞬間胃袋を掴まれて、リミッターが完全に壊れた感じ」



だけどそんな風に世界を変えるのは、いつだって自分次第なのだと教えてくれた。


現状に嘆いてばかりでは何も変わらない、変えられない。


少しでも変わりたいと思ったら、自分の力で自分を信じて踏み出すしかないのだと。


 
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