好きの代わりにサヨナラを《完》
「あんた、まさか好きなやつすらいないの?」

恭平をポカンと見上げたままのあたしを見て、恭平はふっと目を細めた。

馬鹿にされるかと思ったけど、彼の目は役を演じている時と同じくらい優しかった。



「いないことないです……」

この男に、本当のことを話す必要はないのかもしれない。

だけど、なぜか今日は素直に答えてしまった。



「そう」

あたしに向かってうなずくと、恭平は遠い瞳で海を眺めていた。

あたしには、彼が何を考えているのかよくわからない。

いつも見せる無表情で冷たい瞳とは違う、どこか哀しみを隠したような憂いをおびた目をしていた。
< 31 / 204 >

この作品をシェア

pagetop