六周年記念小説
雫side

俺はこの五ヶ月で梓を好きになっていた。

学校で言った“俺の大切人”とは
まさしく梓のことだった。

毎日毎日作ってくれる弁当は
何時も彩りよく綺麗に
盛り付けられている。

「梓?」

午後八時、靴はあるのに
リビングにいないということは
自室だろうと思いノックしたが返事がない。

本来、年頃の女の子の部屋を
無断で開けるのはどうかと
思うが何かあったらと思い
ドアを開けると部屋の主は
スマホを片手に握ったままで
床で寝てしまっていた。

「梓」

中に入り揺すってみるが
起きる気配はない。

このままでは風邪をひいてしまうから
梓を抱き上げ、ベッドへ運んだ。

布団をかけようと腰を
上げようとして引っ張られる感覚がした。

よく見ると梓が服の端を掴んでいた。

『雫……』

名前を呼ばれドキッとしてしまった。

しかし梓は眠ったままだ。

寝言……?

俺の夢でも見ているのか……?

掴んでいる手をそっと外し
唇にキスをした。

『雫?』

どうやら、今のキスで
お姫様を起こしてしまったみたいだ。

「そう、俺だよ」

ドアに向かっていたのを
梓がいるベッドの方へ向き直した。

『今、キスした?』

「したな」

好きな人の寝顔を見て
我慢できる男はいないだろう。

『なんで?』

嘘をついてもしょうがない。

「好きだからだ。
あの時言った“大切な人”は
紛れもなく梓のことなんだ」

この先、梓以外愛する気はない。

『こっちに来て』

俺は今の位置から動けない。

「駄目だ」

『何で?』

今、梓の近くに行ったら
理性の糸が切れそうだからだ。

「今、側に行ったら襲いそうだから」

正直に告げた。

生徒だとか未成年だとか
何もかも忘れて抱いてしまうだろう。

『いいよ、雫なら。
私も雫が好きだもん』

全く予想してなかった
言葉が返って来て内心ドキッとした。

「ありがとう、
それはまた今度な。
だけど、今日から恋人同士だ」

理性を総動員させて
抱き締めるだけに留めた。

『嬉しい❢❢』

俺達がカップルになったと
知ったらあの二人はどう思うだろう?

「二人が
帰って来たら報告しような」

それに梓も同意してくれた。

雫side〔終〕

********************************

少し、遅く帰って来た
二人に報告した。

「おや、それはおめでとうございます」

泰佑は私達のお祝いの料理を
作ると言ってキッチンへ行った。

「くっつくの遅ぇよ」

呆れた声で勇人が言った。

なんでも、私達が
両思いなのになかなか
くっつかないのが
焦れったかったらしい。

この時が
四人で居られる最後の日だった。
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