オフィスにラブは落ちてねぇ!!
それからしばらくして店が賑わってきた頃、マスターがスマホの画面を見ながら愛美に声を掛けた。

「愛美ちゃん、さっき言ってた俺の後輩、仕事済んだら一度家に帰ってから来るって。」

「一度帰ってから?」

「車で通勤してるからね。家がこの近くだから、車置いて歩いて来るんだよ。アイツの事だから、ついでにシャワー浴びて着替えて来るんだろ。」

「女子みたいだね。…なんで?」

「ONとOFFの切り替えがしたいんじゃない?仕事終わってそのままだと、仕事の延長みたいな気がするって前に言ってたから。」

愛美は水割りを飲みながら、少し考える。

「ふーん…。それって、仕事してる時の自分は素の自分じゃないって事?」

「そうかもね。人の上に立つ仕事だしハードなんだろ。元々は大人しくて真面目で優しい男だから、仕事は仕事で割りきって気持ち切り替えないとしんどいんじゃないかな。」

(大人しくて真面目で優しい男かぁ…。どんな人だろ?)


かつて付き合ってきた男たちとは違うタイプである事は間違いないと、愛美はまだ見ぬその人と会う事が少し楽しみになる。

思えばこれまで、よほど男運がなかったのか、ろくな恋愛をしてこなかった。

男らしさに惹かれて付き合い始めた頃は優しかったのに、しばらく経つと上から目線で暴言を吐くようになり、些細な事で暴力を振るうようになった自信過剰な俺様男。

明るくて優しいと思って付き合い出したら、誰にでも同じように優しくして、悪びれもせず散々浮気を繰り返したチャラ男。

傷付いた心を優しく慰めてくれると思ったら、いつの間にか部屋に転がり込んでろくに働きもせず、金をせびるだけせびった挙げ句、女と消えたヒモ男。

ろくでもない男との恋愛に疲れきって、ここしばらくは自然と恋愛からは遠ざかっていた。

そして、過去のつらい恋愛経験でよほど心が荒んだのか、気が付けば心の中で毒を吐くようになっていた。



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