オフィスにラブは落ちてねぇ!!
愛美はゆっくりと立ち上がり、ふらつく足取りでレジへ向かう。

「あれ?愛美ちゃん、帰るの?」

マスターが慌てて呼び止めた。

「どうせもう来ないよ。やっぱ無理だわ。」

愛美は涙で頬を濡らしたまま、力なく作り笑いを浮かべる。

「帰るよ。お勘定して。」

バッグから財布を取り出そうとしてふらついた愛美が、ドアを開けて慌てて店に入ってきた男に倒れ込んだ。

愛美はゆっくりと顔を上げて、ぼやけた視界に映るその男の顔に目を凝らす。

(……支部長?)

仕事の後、そのままここに来たのだろう。

愛美の大嫌いな緒川支部長の姿がそこにあった。

「菅谷…遅くなってごめん。」

「政弘!間に合って良かった。愛美ちゃん、もう帰るって。」

愛美は握りしめた拳で、緒川支部長の胸を思いっきり叩いた。

「離せバカ!!もう帰る!!」

泣きながら何度も胸を叩く愛美を、緒川支部長は強く抱きしめた。

「ごめん…。」

「離せってば!」

「すみません先輩…連れて帰ります。勘定は…。」

「今度でいいから、早く連れて帰ってやりな。」

「はーなーせー!!」

緒川支部長はマスターに頭を下げると、酔って暴れる愛美を抱えるようにして店を出た。


緒川支部長は、店の前に停車していた車の助手席に、押し込むようにして愛美を乗せてシートベルトを絞めた。

「どこに連れてく気だバカー!!オマエなんか嫌いだって言ってるだろうがぁ!!」

緒川支部長は運転席に座ってシートベルトを絞めると、車のドアをロックして車を走らせた。

「降ろせー!!今すぐ降ろせー!!オマエなんか嫌いだー!!」

相変わらず愛美は助手席で悪態をつく。

「何が約束だよ!!何が大事にするだよ!!嘘つき!!」

「ごめん…。」

緒川支部長はハンドルを握ったまま申し訳なさそうに謝る。


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