オフィスにラブは落ちてねぇ!!
あれからずいぶん時間が経ち、週末の夜を楽しむ客で賑わう店の中、愛美はポツンと一人、グラスを傾けていた。

これが何杯目なのかも、もう覚えていない。

(私、何杯水割り飲めばいいんだろう…。ってか…ホントに来るのか?)

愛美はぼやける腕時計の文字盤に目を凝らした。

(なんかグラグラする…。んー…9時半…?)

早めに仕事を終わらせると言ったのに、緒川支部長はまだ来ない。

(何が約束だよ…。なんかもう…待ってるのバカらしくなってきた…。これ飲んだら帰ろう…。)


“めちゃくちゃ大事にするから。”


酔った頭の中で、不意に緒川支部長の言葉が蘇る。

(嘘つけ…。自分から誘っといて、何時間待たせれば気が済むんだバカ…。)

夕べの緒川支部長を思い出すと、ほんの少し胸が痛んだ。

大嫌いだと思っていた人の意外な一面を見た事で、勘違いしてしまったかも知れない。

甘い声に酔わされて、がらにもなくときめいてしまった。

もしかしたら今度こそ幸せな恋愛ができるかもと、どこかで期待していた自分を嘲笑う。

(バカは私か…。来るかどうかもわからないのに待ってるなんて…。)

愛美の脳裏に、いつかのつらい恋の記憶が蘇る。

(最初は優しかったのに…そのうち散々頼って、甘えて、たかるだけたかって、知らないうちに女とどっかに消えちゃうんだもんなぁ…。結局、どれだけ待っても帰って来なかったな…。)

愛美は虚ろな目をして頬杖をつき、涙のようにグラスを伝う水滴を人差し指で拭った。

(みんな最初は優しくても、だんだん本性現してさ…暴言吐いたり殴ったり蹴ったり浮気したり…。それって私が悪いのか…?)

結局、男運の悪い自分には、ろくな男が寄り付かないのかも知れないと苦笑いをして、愛美はグラスの水割りを一気に飲み干した。

(なんかもう…情けない…。私がどんなに愛したって…誰も本気で愛してなんかくれないのに…。期待なんかしてバカみたい…。)

知らず知らずのうちに溢れた涙が、頬を伝った。


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