オフィスにラブは落ちてねぇ!!
愛美はコンロの火を止め、少し考える。

「いいですけど…晩御飯、もう済みました?」

「いや、まだだよ。さっき帰ったとこだから。」

「私もこれからなので…良かったら、晩御飯一緒にどうですか?」

ほんの一瞬間があってから、緒川支部長の嬉しそうな声が聞こえた。

「…うん!それじゃ、急いでシャワー浴びてから行くよ。」

電話を切ってから、愛美は緒川支部長の嬉しそうな声を思い出して、一人でクスクス笑った。

(なんかかわいい…。ホント別人…。)




緒川支部長は電話を切って、慌ててバスルームに飛び込んだ。

嬉しそうに口元をゆるめながらシャワーを浴びる。


昨日、愛美からハッキリとした言葉では気持ちを聞けなかったけれど、こちらの気持ちを受け入れてくれた事が嬉しかった。

本当はもっと一緒にいたかったけれど、夜も遅く次の日も仕事があるので、そのまま車で家まで送った。

帰り際に“明日の夜、仕事が終わったら会おう”と言おうかと思ったけれど、予定外の仕事で帰りが遅くなったら、また愛美を待たせてがっかりさせてしまうと思うと、言い出せなかった。


結局、約束もできないままで朝からいつも通りに出社して仕事をしていたが、やはり支部で顔を合わせた愛美の目は冷たかった。

仕事中の自分の事はやっぱり嫌いなんだなとか、それでも普段の自分の事は好きになってもらえるだろうかとか、自信がなくて落ち込みそうになった。

なんとか平静を装って仕事をこなし、夕方に訪れたお客さん宅で、お茶と一緒に美味しい柿をご馳走になった。

庭の木になったという、その甘くて美味しい柿をたくさんもらったので支部で配ろうかとも思ったが、それほどの数はない。

誰かに剥いてもらって夕礼の後にでもみんなで食べようかと思った時、ふと愛美の家を突然訪れる口実になりはしないかという考えがわいた。

仕事中は嫌われているのは明らかだし、ハッキリした気持ちを聞いていない事もあって、愛美の事を“恋人”と言ってもいいのか、まだ自信がない。


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