オフィスにラブは落ちてねぇ!!
本当は毎日だって会いたい気持ちはあるけれど、約束もせず突然会おうと言っても迷惑がられはしないだろうかと不安になる。

今日は運良く仕事が早く終わり、いつもよりかなり早く会社を出る事ができたので、さりげなく愛美に会いに行こうと決めた。

急いで家に帰り、ほんの少しでも会えればと思いながら愛美に電話をすると、愛美の方から食事に誘ってくれた。

もしかしたら“急に言われても無理”と会うのを断られるかもと思っていただけに、愛美からの食事の誘いは余計に嬉しかった。


緒川支部長はシャワーを済ませると、普段着に着替え、濡れた髪を適当にタオルで拭き、眼鏡を掛けて、柿の入ったビニール袋を手に胸を弾ませながら愛美の家に向かって車を走らせた。




愛美がシチューをかき混ぜながら弱火で温めていると、部屋にチャイムの音が鳴り響いた。

うちのチャイムの音ってこんなに大きかったっけ、などと思いながら玄関のドアを開けると、仕事中の緒川支部長とは別人のような、優しい目で微笑む“政弘さん”が立っていた。

「お待たせ。あ、とりあえずこれ…。」

緒川支部長は柿の入ったビニール袋を差し出した。

「わぁ…こんなにいいんですか?ありがとうございます。」

愛美は袋を受け取りながら、緒川支部長の顔を見上げた。

(あ…。髪、まだ濡れてる…。)

よほど急いで来たんだなと、思わずクスッと笑みがこぼれた。

「どうぞ。」

愛美が部屋の中に入るように促すと、緒川支部長は少し驚いた様子だった。

「おじゃまします…。」

少し落ち着かない様子で部屋に入ると、緒川支部長は鼻をクンクンさせた。

「あれ?いい匂い…。」

「作り過ぎちゃったので良かったら一緒にと思って…。シチュー、好きですか?」

「うん、好き!」

満面の笑みでうなずく緒川支部長を見ると、愛美もつられて笑顔になった。

「良かった。今、用意しますね。」

(かわいい…!やっぱり犬みたい…!)


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