ジー・フール
倉田の目は少しだけ潤っていた。
今にも泣いてしまいそうに。
倉田には何か事情があって戦っているんだろう。
その為なら命だって賭けられる。
誰かの為に涙も出せる。
はじめて倉田の弱い一面を知った。
弱いんじゃなくて、きっと僕より強いんだ。
ずっと強い。
「悪いな…」
倉田は右手で目を擦った。
「いえ…」
僕は倉田にそれ以上のことを追求せず、ただ黙って缶ビールを飲んでいた。
星が見えてきて、僕はゆっくり深呼吸する。
風も冷たい。
鼻から入ってくる空気も冷たい。
そして僕の体も冷たい。
ビールのせいだろうか。
「悠斗…ありがとな」
倉田は空を見ながら言った。
なんで僕にお礼なんて言ったのだろう。
何もしてないのに。
ただ酒に付き合っただけ。
でもなんだか不思議で、缶ビールがおいしかった。
明日は新しいパイロットが来る。
今までもきっと配属されていたと思うけど、気にしたことなんてなかった。
けど今回はわざわざ司令官が話してくれた。
そのことも不思議だった。
それ以上に気になっている自分自身が。