ジー・フール

2本煙草を吸い終わって、部屋に戻ろうとした。

「お帰り?」
後ろから女の声が聞こえた。

「誰?」
僕は言いながら振り返る。

「ツバキ、よろしく」

軽く手を伸ばす。
僕はこの女性に見覚えが全くなかった。
はじめてみる顔。

「何か用?」

「用はないわ。ただそこにいたから声かけただけ」

「逆ナンってやつ?」

「面白いわね」
彼女は手で口元を隠しながら笑った。
上品な女性だろうと僕は思った。

「なら帰る」
僕は体を戻してエレベータに向かって歩いた。

「待って」

僕は再び振り返った。
彼女はその場から動いていなかった。
黒いスーツ姿のツバキと名乗る女。
どうも逆ナンするタイプには見えない。

「何?」

「どうせ貴方も暇でしょ?」

腕を組みながら僕の方にゆっくり歩いてくる。
僕は一息ついて言った。

「暇なら?」

「今からどう?」

「やっぱり逆ナンじゃないか」

「どっちでもいいわ」

確かに僕にとってもどっちでもいい話だった。
きっと会話になる種を探していたのだ。

僕はそのまま彼女の後ろについていき、ホテルを出た。

< 66 / 93 >

この作品をシェア

pagetop