危険な愛を抱きしめて

_(2)

 



「あら、まあ。
 やっぱり、音雪さんでしたのね?」

 四十がらみの。

 いかにも遊び慣れた、良家の奥様風の女が、妖艶に笑った。

 その、見知った顔に、ほほ笑もうとしたオレの表情が。

 ぴしっと音を立てて硬くなるのを、自分でも感じた。

「……九条……さやか……さま」

 そう、アヤネの母親である、その女は。

 オレの口から自分の名前を聞くと、勝ち誇ったように、目を細めた。

「村崎家のご子息で。
 ウチのアヤネの婿になる予定の方が。
 ホストクラブなんて、いかがわしい場所でアルバイトですか?
 村崎家の経済状態が、そんなに悪かったなんて、わたくし、存じませんでしたわ」

 その、いかがわしい場所に出入りしている、あんた自身は、なんだ!

 と言いたいことをぐっと控えて、オレは、皮肉を込めて笑う。

「九条さまに、ご心配いただかなくても、実家は、安泰です。
 オレのこれは、あくまでも個人的な問題で。
 ……そう。
 社会勉強のための遊び、みたいなものです」

「遊び、だから音雪さんは。
 特に指名客を取らずに、ヘルプばかりしているんですか?」

「……!」

 オレの、情けない仕事ぶりを見通され。

 カッと、アタマに血が上ったところを、彼女は、追い打ちをかけた。
 
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