鈴木くんと彼女の不思議な関係

 悲鳴を上げながら身体を強ばらせる多恵を必死に押さえつける。自分の好きな娘が、腕の中で悲鳴をあげて苦痛に耐えている。この状況に興奮しない男がいるだろうか。彼女が心配で、可哀想で仕方ないのに、どこか興奮で昂っている自分がいる。俺までが歯を食いしばって息を詰める。川村っ。早くなんとかしろ。

「やたっ。よしっ。」
「抜けたのかっ。」

 気付いた時には多恵は全身を震わせながら、身体を俺に預け丸まっていた。目の縁に涙がたまっている。川村はまだ慎重に彼女の指先を確認している。

「うん。もうないみたい。」
俺は長い息を吐き出した。多恵も俺の腕の中で安堵の表情で目を閉じた。
「あ、りがとう。」
 川村が手を離したので、彼女は目を開けて、俺の胸に身体を預けたまま、右手の中指の爪の先を見た。ここに棘が刺さっていたらしい。

「どう?まだ痛む?」
川村が心配げに声をかける。
「ずきずきする。でもささってる感じは無くなった。抜く前よりぜんぜん。ありがとう。」

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