鈴木くんと彼女の不思議な関係

 よかった。川村も俺も胸を撫で下ろした。落ち着きを取り戻した多恵は、俺に預けていた身体を起こそうとしたので、俺は肩を押してやった。薄くて小さい肩。柔らかい感触。ちょっと名残惜しいが、仕方ない。彼女は俺の顔をみて、笑顔を見せたので、俺も笑い返す。

「まだ消毒するよ。だから先輩はそのままね。」
 川村の言葉を聞いて彼女は飛びあがった。俺もちょっと驚いたが、確かに消毒は必要だ。
「うそ。。」
 戸惑いを隠そうともせず、多恵は俺から逃げようと身構えた。俺は素早く彼女の右手を掴む。うっかり顔がニヤケそうになる。うっわ。やっぱり、すげーやわらけぇ。

「やだやだ。もういいよ。嫌だぁ。」
「消毒は必要だ。これで終わるんだ。頑張れ。」
俺はもう一度、嫌がって暴れる彼女を腕の中に閉じこめた。

「やだぁ。先輩、顔が嬉しそう。ひどい。いじわる!」
「いいから。やるぞ。」
 嬉しいのは棘が抜けたからだ。決して、もう一度、彼女を抱き締める口実ができたからではない。

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