鈴木くんと彼女の不思議な関係

 多恵の前で声を荒げるなんて、本当に初めてだった。多恵は驚いて泣きだし、そして泣きながら、俺に許しを乞うために手を伸ばして来たのだ。こんなにも俺を慕ってくれている、なのに、ただの後輩。
 なんだか俺の方が泣きたくなってしまった。

 泣いている彼女を眺めながら、どのくらいの時間が経ったか、俺の頭は少しずつ冷静さを取り戻していた。

「ごめん。怖かっただろ?」
 最初は怯えて嗚咽を堪えていた彼女も、俺が謝ると、素直にしゃくりあげ始めた。

「分かってるか? 多恵は女の子なんだ。で、俺たちは男なんだ。」
 言うと、彼女は首を横に振った。女の子なんかじゃなくていい。先輩と同じ男に生まれたかったのに。彼女が考えている事はだいたいわかる。だが、彼女をこのままにしておくことは、俺にはもうできない。

「多恵が自分が女の子だってことにコンプレックスを持ってるのは、知ってる。今は恋愛や異性に興味がないのも、それはそれでいいんだ。でも、今みたいに無防備なままでは、誰かを傷つけたり、誰かに傷つけられたりしないか、心配なんだ。もう少し、その、自分が女の子だってことを、大事にというか、わかってくれないか?それと、俺たちのことも。」

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