甘い香りに誘われて【続編 Ⅲ 完結しました】

彼女と初詣で*葵side

『私は行かなくて大丈夫です』

小さくつぶやいた都の表情が急に曇ったな。

恋愛運が上がったら困るって、どういう意味だ?

"恋人ならいるから、行かなくていい"という意味なのか?

いや、だったら、あの切ない表情はしないのではないか?

少し強引に都と京都へ来たものの、彼女は嫌そうではなかった。

むしろ、俺に対して好意的な感じに見えた。

けど、都の心が分からない。

ふっ…

一人の女に振り回されている…。

今日までの行動を知られたら、普段の俺を知る矢神に驚かれそうだ。

「おいで…」

人混みを言い訳にして、都と手をつなぐ。

祇園の東山参道を散策していると、焦げた醤油のいい香りがしてきた。

さっき甘味処であんみつを食べたばかりというのに、都は大きな煎餅を買ってもらいご機嫌だ。

円山公園の池の前のベンチに座り、煎餅を頬張る都は満面の笑みだ。






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