腹黒王子に秘密を握られました



ひやりと額に触れた冷たい手が気持ちよくて、思わず「もっと」とねだる。


「なに?」

優しく問い返されて、目をつぶったままつぶやいた。

「気持ちいいから、もっと触って」

「けっこう甘えん坊なんですね」

なんてクスクス笑いながら、冷たい手の持ち主は私の前髪をかき上げ額にそっと手を置いてくれる。

あー、気持ちいい。極楽。

風邪の時はこうやって、お母さんに額を触ってもらうのが大好きだった。

高熱が出るタイプの私は、氷枕や冷却シートで冷やすよりも、人の手で触れてもらう方が気持ちよくて、いつも触ってとねだっていたっけ。
あんたが風邪を引くと他の家事ができなくなる、とお母さんは文句を言いながらも、私の横に腰を下ろし額に片手を置きながら、のんびり小説を読んだりしていた。

ときどきこっそり目を開けて、本を読むお母さんの横顔を盗み見ては、なぜか嬉しくて布団で隠した口元が緩んだ。

具合が悪いのはつらかったけど、風邪をひくのは嫌いじゃなかったな……。




そんな子供の頃を思い出しながらゆっくりと目を開けると、そこにいたのはもちろんお母さんじゃなく……。

「あ、友野さん、目が覚めました?」

「し、柴崎ぃーーーっ!?」


< 153 / 255 >

この作品をシェア

pagetop