腹黒王子に秘密を握られました
 

「シックハウスしょ……? ってなぁに?」

きょとんとした拓斗くんが私のことを見上げて首を傾げる。
本人はわかっていないようだけど、お母さんの反応を見ればそれは明らかだった。

「あぁ、なるほど。それでこの部屋を売却することになったんですね」

ようやく納得がいったという様子で小さく頷いた金子に、お母さんは慌てて首を横に振る。

「あ、違うんです。シックハウスと言っても、そんなひどいものじゃなくて……、この物件が悪いとかじゃなくて」

「物件の価値が下がってしまうと思って、伏せてらっしゃったんですね」

「いえ、あの……」

なんとかその場をごまかそうとするお母さんの横で、お父さんはゆっくりと頷いた。

「そうです」

「あなた……」

「引っ越してきてすぐに、拓斗にシックハウス症候群の症状が出て、売却することにしたんです」

「ホルムアルデヒドやVOCの検査はされました?」

「いえ、実際に有害物質が出てしまうと、マンションが売れなくなってしまうんじゃないかと思うと、踏み切れなくて……」

「これだけ大規模なマンションで他の入居者から健康被害が出ていないのなら、特別粗悪な建材を使っているとは思えませんし、体質との相性の問題だと思います。一度検査を依頼して、はっきりさせてから売却の準備を進めましょう」

不安そうに顔を見合わせるご両親に、金子は穏やかな表情で微笑んでみせる。

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