腹黒王子に秘密を握られました
 
毎日ホコリひとつ残さないように掃除をして、換気に気を遣い、常に空気清浄器を動かして、ホルムアルデヒドなんて目に見えないものに怯えながら暮らすのは、ものすごいストレスだっただろう。

そのお母さんのストレスは拓斗くんやお父さんにも伝染して、どこよりも安心して過ごせるはずの我が家が、誰もくつろげないトゲトゲした場所になってしまったんだ。

その雰囲気を見かねて、そんな神経質にならなくてもと口を出しても、逆に神経を逆なでしてしまう悪循環。
ふたりとも、拓斗くんのことを思っているはずなのに、食い違った思いは対立するばかりで、譲ることができなくなってしまったんだろう。

行き詰った状況で、相手を責めることは簡単だ。
でもそれを続けるのが一番悪い状況だと、ふたりは離婚を決断したんだろう。

私の隣で拓斗くんは黙り込んだまま、そんな両親の姿をじっと見つめていた。

「……俺の勝手な感想を言わせてもらっていいですか?」

柴崎くんはこてんと首を傾げ、無邪気な笑顔を浮かべてそう言う。
勝手な感想ってなんだろうと、不思議に思って彼を見ると、笑顔のままでとんでもないことを言いだした。

「どうせ離婚するなら、手当たり次第浮気したり、借金作りまくって首まわんなくなったりしろよ」

なにを言いだすんだこいつは!

と思わず怒鳴り付けたくなる。
驚いて息を飲む両親を目の前に、柴崎くんは勝手なことを言い続けた。


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