腹黒王子に秘密を握られました
「西村さんのところの売却情報、一旦ネットから取り下げてもらえる?」
事務処理中に声をかけられ顔を上げると、金子が私の前に立っていた。
「え……?」
「あの一軒家、一度保留することになった」
「あ、そうなんですか……」
なんとか平静を装いながら頷いたけれど、キーボードに触れた指先が震えていた。
もう専売契約を結んでいたのに売却するのをやめるなんて、どうしたんだろう。
もしかしたらあそこに住むことにしたんだろうか。
マンションに一人暮らしの西村さんは管理しきれないと言っていたけど、金子と結婚するつもりで一緒に暮らすのなら、将来のことを見据えれば、あの庭付きの一戸建ては大きすぎるということはないだろう。
ご両親に挨拶をするくらい真剣に付き合ってるんだから、そう考えてもおかしくない。
「どうした? 具合悪いのか?」
俯いたまま黙り込んだ私に、金子は不思議そうに顔をのぞきこんでくる。
「いえ……」
慌てて首を横に振って、小さく深呼吸をする。
「金子さん、今度西村さんのご両親に挨拶に行くんですね」
勇気を振り絞ってそう聞くと、驚いたように目を見開いた。