腹黒王子に秘密を握られました
「ど、どうしてって……」
私の背中側にあるひじ掛けに手を付き、覆いかぶさるように私を見下ろす柴崎くん。ソファーの隅っこに座る私には、もうこれ以上逃げ場がない。
なにこの状況。
ちょっと待って。顔が近い……!
「女の子たちみんな噂してましたよ。友野さんは男ならだれでもいいって。じゃあ俺でもいいでしょ?」
「いいわけないでしょ!」
そんな悪意しかない噂、真に受けんな!
唇が触れそうなほど顔を近づけられて、思わずその辺にあったクッションを柴崎くんの顔に押し付けた。
驚いてむぐっと音を立てた柴崎くんが、苛立った様子でこちらを睨む。
「金子さんのことが、好きなんですか?」
「べ、別に……」
「金子さん、あの一軒家のオーナーの西村さんと付き合ってるんですよね? きっと俺が木から落ちて病院に行った時、二人きりになった時に口説いたんですね。さすが金子さん手が早いですよねぇ」
「そう、なのかな……」
「だから、友野さんが俺から付き合ってって言われてるって相談したときも、あっさり好きにしろって言ったんですね。もうあの時は西村さんと付き合い始めてたんでしょうし、ちょうどよかったと思ったんでしょうね」
「…………」
俯くと涙が出そうになって、誤魔化すように上を向いた。
天井からゆったりと張られたタープに、オイルランプの炎が作る影が映って、ゆらゆらと揺れていた。
その影がうるんだ視界でぼやける。