腹黒王子に秘密を握られました


用具入れの前でゴム靴から社内用のパンプスに履き替え、マスクをはずしていると、後ろからふわりと甘い香りが漂ってきた。

振り返らなくても誰かすぐわかる。
二課の事務の相楽真子だ。

私より二歳年下の彼女は、今日も綺麗なセミロングの髪をやわらかく巻いたゆるふわヘアに、愛され度満点のピンクのチークと、とろけそうなくらいグロスが塗られたぷるぷるの唇。

もう完璧に仕上がってるように見えるのに、自分の外見を整えることに余念がない相楽さんは、化粧ポーチを持ってトイレの中に入ってきた。

「おはようございます」

「あ、友野さんおはようございますー。トイレ掃除ご苦労さまですぅ」

なんて言いながら、鏡の前に小さなラメ入りのフェイスパウダーをパタパタとまき散らす。

そこ、私がピッカピカに磨いたばかりなんですけどね。
まぁ、自分が好きでトイレ掃除なんてしてるんだから、誰に汚されようが文句は言わないけど。

「今日も朝から金子さん見ちゃった。金子さん今日もかっこいいですよねー。いいなぁ、友野さんは毎日金子さんと一緒に仕事できるんですもんね。うらやましい。私も一課に行きたいなァ。賃貸の二課なんかより一課の方が自分に合ってると思うんだけどなァ。人事の係長にそれとなく異動させてって言ってるんですけど、ぜんぜん効果ないっていうかぁ、使えないっていうかぁ」

今日もグロスのぬられた可愛い唇がよく動く。


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