今のままで

郁斗 Side

最近忙しくてなかなか美寿々と話せないな…

「あー腹減った美寿々のオムレツ食べてぇ」

ノックがして山下さんが控室に入って来る。

「郁斗まだ前のシーン撮影掛かりそうだ。弁当食べるか?」

今は22時何時に終わるやら…

「いや良いよ帰ってから食べる」

「本当に郁斗は美寿々ちゃんのご飯じゃないとダメなんだな?」

山下さんはデビューの時から俺のマネージャーをしてくれてて美寿々への俺の気持ちも知っている。

「もう何年になる?そろそろ美寿々ちゃんの事はっきりしたらどうだ?」

自分の気持ちに気が付いたのは高校1年の夏、バスケ部の先輩が美寿々の肩に手を掛けて告ってる所を見て無性に腹が立った。
触るな美寿々に触っていいのは俺だけだ!
その先輩が最近また美寿々にちょっかいかけている。

「もう9年越しだよ…」苦笑する。

「山下さん明日俺オフだよね?」

「あぁ美寿々ちゃんの誕生日だもんな?オフにしないと郁斗何するか分かんないからな?」と笑われる。

「明日、レストラン予約してあるんだ。写真取られたら宜しくね?」と言う。

最近オレの周りをうろついてる奴が居る俺のネタでも撮ろうとしてるんだろう?

「郁斗まさか取らせる気か?」

俺は微笑むと山下さんは頭を抱える。

「はっきりさせろって言ったのは山下さんじゃん?」

「いやでも…クソ社長に怒られるな?まぁ仕方ないか?郁斗と美寿々ちゃんの幸せの為だからな?」と苦笑いしていた。

美寿々は俺が結婚しようと言っても素直に「うん」とは言わないだろう?
未だにあの事を負い目に感じている。
大学に入る頃美寿々は自分が木下夫妻の実子でない事を知り情緒不安定になり木下夫妻から距離を取るようになっていた。
木下夫妻は『美寿々は自分達の娘だ』と言い『遅い反抗期だと思って気が済むまで好きにさせるよ』と言って美寿々の好きなようにさせていた。
だがいっこうに美寿々が以前のように木下夫妻に心を開こうとはしなかった。
夜遅くまでバイトをしてバイトの合間に大学の講義を受けている状態だった。
このままでは体を壊すと木下夫妻も心配していた俺も心配で何度と美寿々に話したが『放っといて』と言うだけだった。
そして大学卒業間近に木下夫妻は交通事故で亡くなってしまった。
美寿々は冷たくなった両親をただ見つめていた。
何も言わず涙ひとつ流さずまるで人形のように…
葬儀を済ませても部屋に閉じこもっていた。
美寿々の体はみるみる痩せていった。
俺は心配になり優里に頼んで食事を作ってもらったが美寿々はほとんど食べなかった。
このままでは死んでしまう俺は美寿々の目を覚まさせなければと思い木下夫妻の美寿々への思いを話して聞かせた。

『おまえは木下寿と木下恵美の娘、木下美寿々だろ?』

初めは俺の言葉も耳に入っていない様だったが娘という言葉に反応した。

『自分の名前知らないのか?ちゃんとおじさんもおばさんもお前を実の娘だと言ってるじゃないか?』

美寿々は自分の名前に両親がいる。
娘として愛されていたと思いだしたようだ。

『お父さん…お母さん…ごめんなさい…』と涙を流した。

両親を亡くして初めて美寿々は泣いたまるで子供のように俺は美寿々の背中をさすって

『これからは俺が側に居るから』

木下夫妻の代わりに俺がずっと側に居るから…いや俺の側にいてくれ俺のためにと美寿々の涙が枯れるまで側に居た。
美寿々は自分の愚かな行動を最後まで両親に謝れなかった事を今でも悔やんでいる。
両親の愛情を信じれなかった自分を許せないでいる。
そんな自分は家族を持てないと思っている。
このカメラマンを使って外堀から攻めるか?
美寿々を俺のものにしようと考えていた。
結局仕事が終わったのは27時自宅に戻り少し仮眠をとった後、美寿々に会いに行く。

「オムレツ食べたい」

「仕方ないな…ちょっと待ってて」と言って作ってくれる。

「はいお待たせ」

「うーんいい香り美寿々のクロワッサン美味いもんな?」

どうしてだろう?
優里のクロワッサンより旨いんだよな?

「トマトも食べなさいよ?」

美寿々は俺がトマト嫌いだって知ってるのに必ずトマトを添える。

「無理!」

「もぅ子供なんだから?」

美寿々に微笑んでオムレツを食べる。

「やっぱり美寿々のオムレツは一番だよ」と言うと美寿々は嬉しそうな顔をする。

その顔が愛おしい。
美寿々はトマトが嫌いな俺の為に食べやすいからとフルーツトマトをハウスで一年中育てている。
トマトを食べなくても死にやしないからそこ迄しなくても良いのに…
だから1切れだけはトマトを食べる。
俺の残した1切れのトマトを美寿々が食べてる事も知っている。
そんな事に幸せを感じてる俺は相当だな…
さぁそろそろお客さんが来る前に帰るか?
以前雑誌のインタビーで花水木の話をしたら、俺のファンの子が店に来てくれるようになったが一度俺のいる時に大騒ぎになった事がある。
それ以来俺は営業時間には顔を出さないようにしている。

「今日仕事休みなんだ。夜、飯食いに行こうな?じゃ寝るわ」と席を立つ。

「イクト!洗濯物玄関に出しといてよ!あとで取りに行くから」

「分かったサンキュー」と自分の部屋に帰っていく。

いつも食事の心配や洗濯物を気にかけてくれる。
まるでお袋のように?
いやもう直ぐ嫁さんとして世話を焼かせてやるよ!と微笑する。
ソファーで寝ていると美寿々が毛布を掛けてくれた。

思わず美寿々の腕を掴み「一緒に寝よ?」と言う。

美寿々は「冗談言わないの」と手を払い部屋を出て行った。

テーブルに置かれた昼飯を見て

「冗談じゃないんだけどなぁ今夜楽しみにしてろよ?」と俺は微笑む。

閉店時間を過ぎた20時になると店に顔を出し美寿々を食事に連れ出す。
たっちゃんに紹介してもらったレストランで誕生日をお祝いすると美寿々はやっぱり自分の誕生日を忘れていたようで一瞬なぜだか寂しそうな顔をしたが喜んでくれた。
プレゼントのネックレスを着けてやると

「こういう物は彼女にあげてよ」と返された。

お前以外の彼女なんか居るわけ無いだろ?
お前の事が好きなのに…
クソ俺からのプレゼント嬉しくないのかよ?…

「美寿々が要らないなら捨てろよ」と少し怒って言う。

「はぁー?捨てろよって…捨てれるわけ無いじゃん」

「じゃ貰っとけよ」

「…」美寿々は納得行かないようだ。

俺だって返されて受け取れるわけ無いじゃん

「ちゃんと着けとけよ!俺のって印なんだから」

美寿々は何を言われたか分からないようだ。
そろそろ出ようと席を立つと美寿々が慌ててネックレスを着けるのを見て嬉しくなる。
マンションに帰り部屋の前で

「郁斗、今日はありがとう。これ大事にするね?」と美寿々に言われ嬉しくなる。

「あぁおやすみ愛してるよ」

美寿々の額にキスを落とすと目を丸くして固まってる。
驚くことは想像はしていたけどそこまで固まらなくても…
可愛いな扉を開け美寿々を部屋へ入れる。

「鍵ちゃんと閉めろよ」

「う、うん…」と返事をする。

ククク笑いが溢れるあいつ寝れるか?
少し心配になる。
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