Engage Blues
三十分後。
わたしは高級住宅街の一角を歩く。
一応、コウは美由紀がいるであろう場所を教えてくれた。
正確な場所を知らなかったけれど問題ない。
夕飯も近い時間帯だというのに、ある邸宅の前には人だかりができていたからだ。
純和風の門構えからして、パッと見はヤクザの集会にも思えた。
わたしが臆することなく邸宅に近付くと、ぼそぼそとした小声が聞こえてくる。
「……来たぞ。凰上の娘だ」
「あれが次期師範の……」
探るような視線は無視して敷地内へ入ろうとすれば、門の前で引き止められる。
「すみません。お帰りください」
「お嬢様より、誰も通すなと言われております」
電話での美由紀の口ぶりとは違う門下生の態度。
これも、わざと仕組んでる。
来るなら、全てを蹴散らして来いってね。
だから、わたしも迷わない。
足幅を広げ、呼吸を整える。
「凰上家流闘術」
「えッ……」
目を丸くした門下生なんか気にせず、両手をかざす。
膨れあがる力をイメージしながら思いきり叫ぶ。