Engage Blues

【幕間】彼の瞳に映る世界











 夕飯の支度中、虎賀さんが訪ねてきた。

 梨花は買い出しの最中で不在だった。
 帰りが遅いので心配した矢先、開けた扉の向こうに彼女が微笑んでいる。



『先日は失礼しました。お詫びもかねまして、梨花と三人で食事でもどうですか?』




 丁寧な謝罪だが、唐突な申し出だ。
 俺が戸惑っていると、虎賀さんはスマートフォンを取り出して梨花に電話をかけた。


 幼馴染みという身近で付き合いの長い縁からか、端的なやりとりで話が終わってしまう。


「あの娘の了解は取りつけました。先に、わたしの家へ案内しましょう」と誘われるまま、家を出る。

 その時までは驚きと戸惑いが勝っていて何も感じなかったが。

 車で移動する間、虎賀さんと他愛ない会話をする内に緊張感が芽生えてきた。


 俺の知らないところで、何かが起こっている?



 そんな漠然とした予感がした。










< 105 / 141 >

この作品をシェア

pagetop