Engage Blues





「コウッ」

「感謝してくださいよ。麗子さんとのデート、すっぽかして来たんですから」

 崩れた道場の玄関跡から、コウが爽やかな笑みで入ってくる。
 しかも、今までのことは全てお見通しなのか、わたしに訊ねもってせず、ズケズケと言ってくる。


「やっと納得しました。どおりで何度も若林さんの経歴を洗っても、父親が誰だか出てこないはずです。同族ですもんね」

「……同族?」

 いろいろ突っ込みたいところがある発言だったが、一番重要っぽいところに反応してみる。


「よかったですね、梨花。愛人の子とはいえ鬼洞家のご子息が婿なら、母君も喜んで結婚を承諾してくださいますよ」

「え、えぇ?」


 どうしよう。
 コウの言ってることが、よくわからない。


 とりあえず、慶さんに失礼っぽいことを口にしてると思ったけど、当の本人は気にしてない?


「では、若林さん。これからも、どうぞよろしく。うちの梨花を大事にしてくださいね」

「ああ。こちらこそ」


 男同士はすでに話がまとまったようで、互いに固い握手を交わした。


 いかん。
 完璧、置いてけぼり。






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