Engage Blues
「そ、それに……」
ちゃんと伝えなきゃいけないと思うのに、視線を伏せてしまう。
胸を締めつける切なさが徐々に不安へと変わる。
「ぶ、武術なんか使う女なんて、嫌なんじゃないかって……」
自然と声が小さくなっていく。
一番、怖かったこと。
ヤクザを蹴散らした時、好きな人の青ざめた表情。
二度と見たくないと思った。
慶さんを好きになる度、あの出来事が頭をかすめて胸を刺す。
余計に言えなくなって、とうとうここまで来てしまった。
「……ずっと黙っててごめんなさい」
例え、見限られても謝らなくちゃいけない。
せめて、最後くらいは彼への誠意だけを。
深々と頭を下げれば、慶さんは数秒間の沈黙のあと。
「前に言った」
と、短く告げてくる。
何のことかわからず、ゆっくりと顔をあげてしまう。
見つめた先の慶さんはいつも通り。
「それも梨花の一部だろうって。むしろ、今まで気付いてやれなくてすまなかった」
同じ武術の家なら気付きそうなものなのにな。