Engage Blues









 気怠い身体を俯せにして、惰眠を貪る。
 その間ずっと髪や背中を撫でる慶さんの指が心地いい。

 今にもとろりと睡魔が訪れそうな時、彼の呟きで覚醒状態に戻された。



「……そろそろ挨拶に行きたい」

「えッ」

 ぎくりとして身体を起こした。

「ど、どこに?」

「梨花の実家」


 振り返って訊ねても、嫌な予感が的中しただけだ。
 彼が言わんとしたことはハッキリ理解できたので、ごまかしようもない。



「……嫌か?」

 横目で送られた視線に息を詰まらせる。
 慶さんの表情は、とても寂しげだった。まるで雨の日に捨てられた子犬のよう。


 とても先ほどまで荒々しく求めてきた人とは思えない。
 この激しすぎるギャップは反則だと思う。


 情事後の壮絶な色気も放っていて、拒絶する意思は欠片も出てこない。


 当然そんな心の内を慶さんが知るはずもなく、そっと手を握ってくる。



「俺は、梨花と一緒になりたいと思ってる」



 きっぱりとした言葉とは裏腹に探るような視線だった。



「梨花は、どう思う……?」



 はいとも、いいえとも、言えず。
 答えが出ないまま、声が口をついてしまう。





< 24 / 141 >

この作品をシェア

pagetop