Engage Blues
(……全くもって、冗談じゃない)
どこの格闘マンガの主人公だ。
わたしは、れっきとした女の子だ。ただでさえ、物心つかない内から無理矢理に習わされて、これ以上のゴタゴタは断固拒否したい。
武術家や次期師範なんて、物騒すぎる事態はまっぴらごめん。
四人いる兄たち全員が跡継ぎを辞退したなら、わたしだって遠慮したい。
慶さんのプロポーズは嬉しいけど、結婚となればわたしの家の事情がいつバレるともかぎらない。
だったら、さっさと素直に自分から告白するべきなんだろう。
あぁ、そうさ。
今まで、何度カミングアウトしようとも思ったさ。
『慶さん。わたしの家って古くから続く武術を継承してるんです。あ、でも、安心してください。わたしは跡継ぎではないし、結婚に何の障害もないですから』
なんて、言えるわけがない。
仮に言えたとしても、慶さんとしてはドン引きだろう。
破局したって、おかしくないと思う。
最悪の未来を想像しながら、ちらりと横目で慶さんを見る。