Engage Blues









(……全くもって、冗談じゃない)


 どこの格闘マンガの主人公だ。

 わたしは、れっきとした女の子だ。ただでさえ、物心つかない内から無理矢理に習わされて、これ以上のゴタゴタは断固拒否したい。

 武術家や次期師範なんて、物騒すぎる事態はまっぴらごめん。
 四人いる兄たち全員が跡継ぎを辞退したなら、わたしだって遠慮したい。


 慶さんのプロポーズは嬉しいけど、結婚となればわたしの家の事情がいつバレるともかぎらない。


 だったら、さっさと素直に自分から告白するべきなんだろう。

 あぁ、そうさ。
 今まで、何度カミングアウトしようとも思ったさ。



『慶さん。わたしの家って古くから続く武術を継承してるんです。あ、でも、安心してください。わたしは跡継ぎではないし、結婚に何の障害もないですから』



 なんて、言えるわけがない。


 仮に言えたとしても、慶さんとしてはドン引きだろう。

 破局したって、おかしくないと思う。



 最悪の未来を想像しながら、ちらりと横目で慶さんを見る。





< 40 / 141 >

この作品をシェア

pagetop