Engage Blues





 間近じゃ顎を反らなければ視線が合わないほどの長身。
 整った顔立ちは普段は少しの憂いを帯びているけど、わずかな変化を見つけると嬉しくなる。
 性格も、見た目からは戸惑うくらい穏やかで控えめな人柄。

 隣を歩けるようになって気付いた。
 道ですれ違う誰もが振り向いてしまう存在感。

 わたしにはもったいないくらいの男性だ。

 初めて逢ったのは八年前。二十歳の時。
 同じように二十年かけても、慶さん以上の人は現れないだろう。


 だから、偽る。
 なくしたくない。


 でも、隠すことが失う理由にもなり得る。


 どうしたらいいんだろう?



 誰にも言えないジレンマを抱えて歩いていると、背後に気配を感じた。

 そっとカーブミラーやショーウィンドーのガラスで確認すると、見覚えのある人影ふたつに脱力しかけた。


 子トラ兄弟め。
 今度は何の用なんだ。









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