Engage Blues





 おそらく慶さんは定食屋でのやりとりを言ってるんだろう。

 ありがたいことに、子トラ兄弟はわたしの家については一切触れなかった。
 ただし、その代わりなのか、世間話のかたわら大盛り定食を遠慮なく食い散らかしてくれた。
 なので、わたしは必然的にメニューを押しつけて選ばせ、料理が運ばれてきたらソースや醤油をとってやり、平らげた皿や器を片付けやすいようテーブルの端に重ねていただけだ。文句言いながら。


 まさか妬いてる?
 そっぽ向いた顔で不機嫌さをアピールしてるのか。

 それでも、握った手は離しません。
 ちょっとお兄さん。その仕草、胸キュンですよ。


 まぁ、虎太郎も虎次郎も何かしら家庭の事情がありそうだ。
 慶さんは、それを感じ取ったのかもしれないな。


「あの子たち、近くの大学に通ってます」

 ちらりとこちらを見る。
 何を言いたいんだと視線で探ってくる。


「見かけたら声をかけてください」

「ん」

 短く返事をすると、慶さんは手を引くように歩き出した。
 正直、子トラ兄弟と接触させたくはないのだけれど、あそこまで可愛いがられたら一度きりも味気ない。





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