Engage Blues










『もともと、あまり長居できる場所じゃない』



 と、端的に告げる彼の横顔から真意を探ることはできなかった。

 お母様もすでに亡くなられていて、他に頼る親戚もいない。
 お父様との別れで、彼は帰る場所が失われた。


 長年、里帰りしてないうちも言えた義理じゃないけど。
 当たり前に側にいる存在がないって感覚は、とてもつらいことだと思う。


 だからなのか、慶さんにとって食事は特別な意味を持つ。
 料理を作ったり、誰かを誘ったり。


 ひとりきりじゃない食事は、孤独を知る慶さんにとって最高の贅沢。

 初対面の子トラ兄弟を誘ったのも、そんな寂しさの裏返しかもしれない。


 そう思い至ると、不意に胸が締めつけられる。


 このひとの寂しさを埋められたらな。
 そんな願いを込めて、慶さんの手を握る。



「すごく素敵です」

 笑いかけると、わずかに目を瞠って。
 何故か、顔をそむけた。

「……梨花だって」

「?」

「虎太郎たちに優しいじゃないか。あんなに可愛がって」


 えッ。そんなことしたっけ?
 ただ、あしらってただけなんだけどな。





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